『Antitled』6号(2027年5月刊行予定)では、下記の要領で特集を企画しており、原稿を募集いたします。募集する原稿の種類は(ⅰ)論文、(ⅱ)研究ノート、(ⅵ)その他、の3種です。投稿規程と執筆要綱、締め切りは、通常の投稿原稿と同じです。
特集:フィクションと歴史研究の可能性を考える
多くの人々にとって歴史への関心の入り口となってきたものの一つに、フィクション作品がある。古くは歌舞伎や講談、現代では歴史小説やマンガ・アニメ・ドラマ・ゲーム等多岐にわたり、さらなる広がりを見せつつある。
視聴者・読者はこれらの物語、キャラクターを通じて特定の時代や社会への興味を掻き立てられる。歴史像の形成において、フィクション作品が果たす役割は、学校教育や歴史学の成果に勝るとも劣らない。「歴史学の危機」が叫ばれて久しいが、少なくとも歴史フィクションの人気は、衰えるどころかますます高まっている。近年、「異世界もの」というジャンルはすっかり定着したが、これらの多くは中近世ヨーロッパ、前近代東アジア風の世界を舞台としており、史実を題材とした作品との距離は意外にも遠くはない。
歴史とフィクションの関係は、伝統的な物語論に加えて、近年では、時代考証学会の精力的な活動、そして「パブリックヒストリー」の視点から、歴史を描くフィクション作品を「歴史実践」として論ずる潮流も目立ってきている。2022年には、『歴史評論』870号において、「エンターテインメントの世界から見た日本中世史」、2024年には、『歴史学研究』1052号において、「シリーズ歴史を書くということ【第4回】エンターテイメントと歴史」といった特集も組まれるようになった。
このような潮流を受け、本誌においても、歴史を題材とする小説、アニメ・マンガ・ドラマといったフィクション作品を、多角的に、そして肩肘張らずに考えてみたいというのが、本特集の目的の一つである。歴史研究とフィクションとの関係を論じる方法論は、確立されているわけではない。しかし、むしろ確立されていない今だからこそ、幅広い可能性を持った議論を期待できると考えている。
近年隆盛している「歴史実践」という視角は、フィクションもまたある種の歴史であり、歴史観であるとして、いわば歴史の領分にフィクションを包摂しようとする傾向がある。しかし本特集では、これとは逆の問いを検討してみたい。すなわち、研究者が歴史フィクションに対する特権的な立場から降り、歴史フィクションを楽しむごく普通の人間と言う立場から、内在的に作品を分析することに意義はないだろうか、という問いである。
こうした観点のほか、作品が歴史的な出来事や社会状況をどのように描き、あるいは改変・再構成しているのか、制作の背景にはどのような時代状況や歴史認識が反映されているのか、そして、視聴者・読者の歴史理解や歴史意識の形成に、これらの作品がいかなる影響を及ぼしているのかといった外在的な問いもまた、歓迎する。歴史的な作品の場合、時代背景や当時の社会制度を踏まえて読み解くことで、これまでとは異なる解釈の可能性が開かれ、作品そのものへの理解も一層深まっていくだろう。そして、深まった作品理解によって、さらに歴史的な「問い」が生み出され、研究が発展していくという好循環も期待される。
以上、内在的な作品分析から歴史教育論に至るまで、狭義の歴史学に限らず、幅広い立場・切り口から論じるものを募集したい。意欲的な論稿をお待ちしている。
担当編集委員
寺澤優