『Antitled』 は、「アンチ学際」をコンセプトとし、「正統」歴史研究を掲載していくことを目的とする査読付きオンラインジャーナルです。年に1回、毎年3月に刊行されます。創刊号は、2022年3月28日に刊行予定です。
本誌は、日本国内の歴史研究、とりわけ日本史学領域において、周縁的に位置づけられたり、不当に低く評価されてしまったりする研究を、既存の基準にとらわれず評価し、あくまで「正統」な歴史研究として積極的に掲載していくことを目的とするオンラインジャーナルです。当面、立命館大学大学院出身の若手研究者を中心に運営されます。
近年、複数の分野を横断する学際的研究の重要性が主張されることが増えてきました。従来の枠組みにおさまりきらない研究が、これまでにない成果を生み出すのではないかと期待されていると言えます。しかし私たちは、歴史研究という分野において、学際性ということばが、逆に特定の研究対象・資料・方法の正統性を強化し、時に新規的研究を周縁へと追いやる機能を果たしていると考えています。
広義の歴史研究は、研究者自身の主体的な問題意識に基づき、資料の分析を通じて過去の事象を解釈するものです。その意味において、資料ののこるあらゆる事象において行ない得るはずのものです。そして現在の研究水準からいえば、文字資料だけでなく、絵画や映像、音声、記憶、語りといったものが資料になり得ます。そして仮に、ポルノグラフィやゴシップ誌など、「俗悪・低劣」とみなされがちな資料を用いたとして、その事自体がその研究の価値を低く見積もることにつながってよいはずもありません。何を明らかにするのか、それをいかなるやり方で描くのかは、各々の研究者の見識に任されるべきもののはずです。
しかし、現状の日本史学界においては、研究に値するとされる研究対象や資料は、暗黙のうちに選別されており、研究手法や視角も序列化されていると言わざるを得ません。学際性は、このような選別や序列化によって周縁化され、劣位に置かれがちな研究を、従来から正統とみなされてきた分野や手法の研究者が「敬して遠ざける」ために機能している実態があることを、私たちは指摘したいと思います。そして、周縁化され、劣位におかれがちな研究もまた、歴史研究本来のあり方からみれば「正統」な歴史研究であると主張することをもって、この現状に抵抗したいと思います。
したがって本誌は、現状、主要な歴史系学術雑誌にそのままでは掲載されることが困難な「学際的」あるいは「周縁的」研究を、極めて「正統な」歴史研究として扱い、評価し、世に送り出すことをもって、これまでの日本史学界における研究上の選別と序列化を廃棄することを目指し編集・刊行されます。
2022年3月28日
『Antitled』編集委員一同
(『Antitled』創刊号、巻頭言より)